敏腕CEOは初心な書道家を溺愛して離さない
 神代は清柊と一緒に会場内の書を見て歩く。
「神代さんは、この書をご覧になっていかがですか?」

 神代は壁際に掛けられている目の前の書をじっと見た。
「正直に言えば俺は良い悪いは分かりません。ただ生命力というんですかね、そういったものを感じます」

「ああ、正しい見方ですね。芸術というのは良し悪しを判断するものではないですから。それに……生命力か」
 ふふっと清柊は笑った。

「それも正しいですよ。書をされる方の中にはかなりご高齢の方も多いです。私なんかは若造扱いですから。一緒にいるだけでも生命力を感じるような方々です。なにかを伝えようとする方々からは確かに発するものがあるように思います」

「なるほど」
 それは書いているものからも力を感じるはずだと、改めて神代は壁の書を見た。

「それだけではないです。香澄さんから、展覧会に出されるときのお話を少し聞きました。半年も前から準備すると聞いて驚いていたところです」

「ははっ、そうですね。なにを書くか……自分を見つめるようにして書いてゆくんです。人がもがく様は美しいですよ。スポーツなどでもそうでしょう? 勝っても負けても、もがいているときに美しさを感じるから、そのさまに人は夢中になるのではないでしょうか」

 ──否定はしないが、そこまで露骨に言うものだろうか?
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