敏腕CEOは初心な書道家を溺愛して離さない
 神代は眉をひそめて、隣にいる清柊を見た。
 綺麗な人だがつかみきれない雰囲気を感じる。

「否定はしませんよ。けどそれだけではないと思います。スポーツなどは達成感もあるでしょう」
「達成するまでの苦しさが良いんじゃないんですか?」

 この人はなにが言いたいんだろう? と神代は真っすぐに清柊を見返した。まるで苦しいさまを見たいと言っているようだ。

「柚木さんは……」
 香澄の名が出て、神代はぴたりと動きを止める。
「過去にいろいろあって、もがいているのが本当に美しかった」

「おい……!」
 さすがに神代の口から普段出ないような言葉が出てしまった。
 香澄のことを言われては黙っていられない。

 清柊は神代から声を荒らげられても澄ました顔を崩さない。
 薄く笑って見返すさまは妖しさすら感じる。

「あなたもですよ。先ほどまでの余裕ぶった態度より、今の夢中になっているときの方が魅力的だ」
 頭にくる物言いだが、清柊の態度は神代を怒らせたいわけではないはずだ。

 香澄がこっちを伺っているのが分かって、心配させたくない神代はぐっと声を抑える。
「怒らせたいわけではないですね」
「もちろん」

 神代は軽くため息をつく。
「では香澄の過去には触れないでもらいましょう」
「知っているんですね」
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