敏腕CEOは初心な書道家を溺愛して離さない
 知っているのかと清柊から問われて、神代は頷く。

「当然です」
「柚木さんのことを本当に大事に思っておられるようだ」

 急に清柊の雰囲気から妖しさがなくなって、温和になった。
 きっとこちらが普段みんなに見せている清柊なのだろう。

「大事です。いつも一生懸命で、ああ……確かにもがいているのも美しいですよ。けど、俺は笑顔の彼女がなにより好きなんです」
「そうか……」

 そう言って清柊は神代を上から下までじっと見た。
「婚約者だと柚木さんは言っていましたが本当なのですよね?」

 分かっていて尋ねる風情の清柊だ。
 神代は即答した。

「もちろん本当です。ご両親も俺のことはご存じですよ」
「結婚後に柚木さんから書道を奪うようなことはしませんか?」

 ──これが聞きたかったことなのだろうか。
 神代が香澄から書を奪わないかどうか……。
 神代は軽くため息をついて髪をかき上げた。

「しませんよ。香澄さんにとって大事だということはよく分かっていますから」
 なんならマンションの空いている部屋は香澄の書のための部屋にしてもいいと思っていたくらいなのだ。

「先ほどは大変失礼いたしました。私も柚木さんには幸せになってほしいと思っています」
(本当に本気か……?)
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