敏腕CEOは初心な書道家を溺愛して離さない
 神代は大丈夫、と片手を挙げて合図する。それを見て香澄はホッとしたようだ。

「仲がいいなあ。かき乱したかったのに」
「清柊先生……」

 どうにもこの人は同性には遠慮がないようだった。
 もしかしたら神代ならば大丈夫だと思われて遠慮なくされているのかもしれなかったが、どちらにしても神代には迷惑な話だった。

 香澄と岡野のところに戻ると、心配そうに首を傾げられた。
「大丈夫でしたか?」
 可愛くて純粋な香澄に触れると神代は本当に心が洗われるようだ。

「はい。大丈夫でした。香澄さんの師匠は心配性なのですね。結婚したら俺が書道を反対しないかを気にされているようでしたので、そんな心配はいらないというお話をしました」

 それだけではないが、もがいているさまが美しいなどという発言があったとは香澄には聞かせたくない。

 つい神代は香澄に尋ねてしまう。
「今まで……清柊先生とは……その、なにもありませんでしたよね?」
 もがくさまが美しいからとわざといじわるなどはされていないだろうかと確認をしたかったのだ。

 香澄は即座に否定した。
「なにもありません! そんなこと……」
 心配だっただけなのだが、神代は香澄を怒らせてしまったようだった。

「ごめんなさい。香澄さん、そういうつもりで言ったわけではないのです」
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