敏腕CEOは初心な書道家を溺愛して離さない
 そう言うと、神代は配車アプリでタクシーを呼ぶ。
 こんな時に限って待ち時間もほとんどなくすぐに配車されてしまうところが切なかった。

 * * *

 香澄は心の中で怒っていた。
 神代と清柊は初めて会ったはずなのに、今まで清柊とはなにもなかったかとか、十分気をつけてと神代が香澄に言ってくる意味が分からない。

 確かに清柊が香澄の師匠となったのはここ最近のことだが、前の師匠の時から一緒にお稽古はしていてどんな人か知っている。

(そういうつもりで言ったわけじゃないって、どういうことかしら?)

 今日は神代のために着物を着てきて、とても喜んでくれていたのに、一緒に展覧会を回ってすごく楽しかったのに最後の最後で台無しになってしまった。

(けど、理由もなく神代さんがそんなことをする?)
 そんな疑問も一瞬頭をよぎったが、香澄はふるふるっと頭を横に振る。

 神代はなにも言い訳することなく香澄をタクシーに乗せたのだ。
 神代があんなことを言い出す前、二人で話をしていたことも気になってはいた。

 今まであんな風に清柊が香澄と一緒の誰かを呼び出したことなんてないからだ。
 一体どんな話をしたのか。

 神代は香澄と結婚しても書道を反対しないかの確認をされたと言っていたけれど、本当にそれだけだったのだろうか?
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