敏腕CEOは初心な書道家を溺愛して離さない
「ああ、柚木さんですね。ご結婚されると伺ってはいますが、婚約はされていないのですか?」
「お互いの意向は一致している……はずなんですけどね」

 そんな神代の様子を見て、高村は微笑みを向ける。
「承知しました。明日はお時間をお作りしますので。何かわだかまりがあるのなら解けたらいいですね」
 神代は笑顔を返すことしかできなかった。
 
 その夜神代は自分の部屋のマンションでソファに座り、スーツの内ポケットから取り出した指輪ケースを取り出してそっと開いた。

 注文していた婚約指輪が仕上がってきたのだ。
 神代は近々、正式に香澄に結婚を申し込むつもりだった。

 怒っているからといって結婚自体がダメになるとは思っていないが、誤解やすれ違いがあるのならそれを正しておきたい。

 香澄がこの指輪を付けるときは願わくば、満面の笑顔であってほしい。
 それが神代の望みだった。そして神代はその指輪ケースをスーツの内ポケットに入れる。

 少し前まで香澄の手紙が入っていた場所だ。
 胸の上のその場所はいつも香澄を思うものが入っている場所となっていた。
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