敏腕CEOは初心な書道家を溺愛して離さない
 真面目な顔で頷く神代は教室に来る教え子のようにも見えて、なんだか可愛らしかった。
 大人の男性に対してこんな風に思うのはおかしいかもしれないけれど。

(はしばみ)色……」
「え?」
 急な神代のつぶやきに香澄は首を傾げる。

「さっき、そう言いませんでしたか? 榛色、と」
 その榛色の瞳が香澄を真っすぐ見つめていた。

「その瞳です。黄色がかった焦げ茶色、というのでしょうか。榛色といいますよね」
 神代は目元に指先で触れて薄く笑う。

「ヘーゼルアイ、とも言うんです。祖母がイギリス人なんですよ。榛色か……。なんかいいですね」
「ヘーゼルアイも素敵です」

 海外の血が混じっているから、綺麗で伝え方もストレートなのかと香澄は納得できた。
「菜々美さん、俺はあなたのことをもっと知りたいな。教室って子どもばかりなんですか?」

 菜々美さんと呼ばれて香澄は固まってしまう。
 神代が甘いその声で菜々美の名前を呼ぶたびに、自分は身代わりなのだと知らしめられるのだ。
 声が震えそうだった。震えていないといいのだが。

「いえ……子どももいますけど、最近は大人も多いですね。学校では十分な硬筆や毛筆の授業はありませんから、綺麗な字を書きたいと思う人がレッスンに来ますよ」
「確かに学校では十分教わらないな。もっと練習してもいいんですけどね」
< 15 / 196 >

この作品をシェア

pagetop