敏腕CEOは初心な書道家を溺愛して離さない
 どきん、とした。
 最後の一言は願うような囁き声だった。
 けれど会いたい。そう心から思ったのだ。

「会います」
 決意を込めて言うとそれが伝わったのか、電話からも伝わる優しい声で『はい。お迎えに行きます』と返ってきたのだった。
 
 香澄は泊まるための準備をしてリビングを覗く。リビングには母がいた。
「あら、香澄ちゃん? どうしたの?」
「え……っと、おでかけしてきます」

「こんな時間に?」
 母は驚いている。
「いえ。神代さんが迎えに来てくださるので。明日、帰ってきます」

「あら。お泊りなのね。いってらっしゃい」
 けろっといってらっしゃいと言われて、香澄は肩透かしな気分を味わった。

 以前にお泊りだったら言ってねと言われていたくらいだから反対はされないんだろうとは思ったが、母が実際にどんな反応をするかは予想できなかったのだ。

「え? お母さん、全然平気なの?」
「だって、もうお年頃でしょう? 今更反対するような年齢でもないし、きちんと行き先も言っておでかけするんだから、それはいってらっしゃいだし……。それに、ちょっと嬉しいかな。ああ、本当に神代さんと結婚前提に進んでいるんだなって安心したわよ」

 そうか……と香澄は思う。お年頃の香澄を親なりに心配していたのだろうと知ったからだ。
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