敏腕CEOは初心な書道家を溺愛して離さない
 シャワーを浴びた香澄がリビングで髪を乾かしていると神代がやってきて、手からドライヤーをそっと取り上げる。

「俺が乾かしてもいいですか?」
「お手間じゃないですか?」
「大好きな人の髪をリビングで、俺の膝の間に置いて乾かすのが憧れだったんですと言ったら?」

 そんな憧れがあるのかは分からないけれど神代がとても幸せそうなので、香澄はお願いすることにした。
「では、お願いいたします」

 神代はソファに座り香澄がふわふわのラグの上にぺたんと座ると、後ろからドライヤーで髪に触れながら神代が乾かしてくれる。

 他人に髪を乾かしてもらうのは美容院くらいだと思っていたけれど、憧れだと神代が言うのも香澄には分かった。
 とても幸せな時間なのだ。

「今度、私にも神代さんの髪を乾かさせてくださいね」
 つい緩んでしまう口元を香澄は隠すこともしなかった。

 神代の前では隠す必要がないと知っているからだ。
「俺のも乾かしてくれるんですか? それは嬉しいな。楽しみにしていますね」

 ──雨降って地固まる。
 一般的に言われることはどうやら本当のことらしい。

「香澄さん、にこにこしていますね。嬉しい?」
「はい! とっても幸せなので」
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