敏腕CEOは初心な書道家を溺愛して離さない
 口ではそう言ったけれど、それだけではなかった。本当に心の中にある輝きは、それが本物なら小さくなってもなくなることはないと実感したからだ。
 今ならあの書は違う気持ちで書けるような気がした。

(むしろ『雨降って地固まる』にしようかしら?)
 いろんなアイデアがあふれるように出てくるのは気持ちにゆとりがあるからだろう。
 香澄にとって神代は本当に輝きそのものなのだった。

 香澄の髪をすっかり綺麗に乾かしてしまい神代がドライヤーを片付けて「食事にしましょうか?」と二人でキッチンに立った時、インターフォンが鳴った。

 神代がインターフォンに向かう。
「はい、どうぞ」
 マンションの入り口のオートロックを開けたのだろう。
 その後また、インターフォンが鳴る。

「はい。今行きます」
 荷物かなにか届いたようだが神代自身が頼んだもののようで、驚いたようすはなかった。

 配達された荷物を持って神代が部屋に入ってきて香澄は初めて驚いた。
 その手には箱に入った薔薇の花があったからだ。

 赤味はあるが、真っ赤ではなく少し落ち着いた色合いの薔薇で三本ほどが白い箱に入り、丁寧にリボンをかけられ包装されている。
「すごい……とても綺麗……」
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