敏腕CEOは初心な書道家を溺愛して離さない
「ブラックティっていうんですよ。珍しい紅茶色の薔薇で芳香も紅茶の香りと言われているんです。花言葉もなかなか素敵ですよ。『決して滅びることのない愛、永遠の愛』というんです。香澄さんが泊まりにいらっしゃるというので」

 神代に手渡されて、香澄はその薔薇を受け取る。
 芳香もとてもいいものだった。
「いい香り……」
「香澄さん……」

 香澄の目の前にケースに入った煌びやかな指輪が差し出された。
「改めて言います。俺と結婚してください」

 ぎゅっうっと胸を掴まれるような気持ちになった。
 鼻がツンとして熱くなる。
 香澄は指輪ケースを持っている神代の手をきゅっと握った。

「はい。こちらこそ、お願いいたします」
 幸せな朝に、幸せなプロポーズだった。
 薔薇と指輪を手に抱いて、二人の唇は自然に重なった。

 幸せな朝から一か月ほど経過したあと、最近香澄は左手薬指の指輪の存在にもだんだん慣れてきていた。
 そんな香澄の姿が教室の中にある。展覧会用の文字を練習するためだ。

 白い紙を目の前にして、今は以前とは全然違う気持ちで紙の前にいることに気づく。香澄は墨と、適度な太さの筆を選び出した。

 墨を少なめにして薄くして表現できる人もいるし、細い筆で美しく表現する人もいる。書道の表現の仕方は様々だ。
< 168 / 196 >

この作品をシェア

pagetop