敏腕CEOは初心な書道家を溺愛して離さない
 香澄は筆を置く強さによって太さが変わるところが表現として面白いところだと思っているので、自分の書ではあえて太いところと細いところをつくる。文字の大きさも同じだ。

『燦然は心中に在りて馴化せしとも失する事無し』
 香澄の心の中の輝きはなくなってしまったかと思った。けれど諦めないで大事にしていればどれだけ小さくともその輝きはなくなることはない。

 自分でも実感したことだったのだ。
 不思議なことなのだが、以前に書いたものよりも字に安定感があるように思える。
 何枚か練習をして、心を落ち着けたあと大きな紙を用意する。これだと思う文字で一気に書いた。

 最後に筆を抜くようにして書き終えたとき、大きな呼吸が漏れる。
 ──できた。
 まだ完成ではないけれど、今の自分にできるベストのような気がした。

 書道の時は紙を破ってしまってもいけないので指輪は外してある。
 香澄の道具をしまってあるキャビネットの上に今はケースごとおいてあった。

 そのケースは開いていてきらきらと香澄に光を届けていた。
 自然と目がいってしまう。

 その輝きは香澄に元気をくれていて、見るだけでも神代が側にいるようで胸がほわりと温かくなる。
< 169 / 196 >

この作品をシェア

pagetop