敏腕CEOは初心な書道家を溺愛して離さない
 その赤くなった頬に向かって神代が手を伸ばす。繊細な指先が頬に触れて、香澄は身体がぴくっとしてしまった。

「嫌ですか?」
「いえ……ただ、驚いてしまって」
 心臓が激しく鼓動を打っている。指先が触れただけなのに、触れられたところがまるで熱をもっているように熱かった。

「たまらないな。謙虚で話していて楽しくて素直で、それでいてご自身の仕事にはプライドを持っている」
 香澄もこの人がとても魅力的だと思い始めていた。
「菜々美さん……」

 けれど、そう呼ぶのを聞いたら泣きそうになった。
 ──違うんです。

「どうして時々そう悲しそうなんです? 話していると楽しそうなのに、時々泣きそうな悲しそうな顔をされるとどうしてあげたら笑顔になるんだろうと思います」
 神代は優しく首を傾げてくれる。話している言葉の一つ一つに神代の誠意と優しさを香澄は感じた。

「私、お断りしなきゃいけないんです」
「どうして?」
「ごめんなさい」

 この人はとてもいい人で素敵な人だ。けれど、本来この素敵な人の隣にいるべきは、自分ではなくて従姉妹の菜々美だった。だからこそ、神代は何度も菜々美の名前を呼んでいる。

 本当なら香澄のことをこの人は知らないはずだったのだ。
 それが正しいこと。正しい道に直さなければいけない。
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