敏腕CEOは初心な書道家を溺愛して離さない
 墨の量に気をつけるというのは、大きな展覧会でも入賞審査で作品を見てもらえるのは一瞬で、墨の量が足りなければ、それだけで入賞しないからなのだった。

 審査の際は三十人ほどの先生方の前にまるで競りのようにスタッフが次々に作品を提示していき、そこに札を挙げたりして点数を出してゆく方法をとる。
 リモコンなどで自動集計する方法もあるが、なんにしろ先生方が作品を見るのは本当に一瞬なのだ。

 実際に審査員もしている会派の重鎮である泰山にお手本を頂けるとはとてもありがたいことだった。
「よろしくお願いいたします!」

 目の前で憧れである泰山が香澄の書を書いてくれる。
 今度は香澄は高揚で胸をどきどきとさせながら、その一挙手一投足を見つめる。

 香澄が書道を始めたのは小学校の低学年の頃だ。それから清柊の父を師匠としてずっと続けてきて、展覧会では何度も泰山の書を見てきたのだ。

 いつもその言葉の選択や、美しい墨跡、勢いと生命力を感じる筆致に憧れの気持ちを持っていた。
 確かにお手本で書いてもらった文字は同じ文字でありながら、さらに洗練されたものとなっている。

「ありがとうございます! 練習いたします」
「うん。あとでまた見ましょう」
「はい!」
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