敏腕CEOは初心な書道家を溺愛して離さない
 先日、練成会でいただいた泰山のお手本をもとに、清柊の元で何枚か同じ書を書いて、その中で清柊がこれというものを選び出してくれた。

 その日は集中して何枚か書いて、自分でも納得のいく作品がいくつか仕上がっていた。
 まだ、墨の乾いていないその紙を清柊がじっと見分している。

 それを香澄も固唾をのんで見守っていた。何枚かの中の一枚を清柊が指差す。
「うん。美しさもあるし、柚木さんらしい持ち味もある。これを出品しましょう。表装に出しておきますね」

 そう言われた時は安心感で足元の力が抜けそうだった。
 大きな仕事を一つ終えた気分だ。

 そうして宛名を手書きで書いた招待状を清柊に手渡す。
「結婚式の招待状ですね」
 香澄はこくりと頷いた。

 清柊の顔が一瞬少し寂しそうに見えたのは気のせいだろう。
「ぜひお越しいただけたら嬉しいです」
 そう言うと清柊は笑顔で受け取ってくれた。

「もちろんお伺いします。のちほどお葉書もお送りしますが、柚木さんの晴れ姿を楽しみにしていますよ」
 それは香澄にとても嬉しい(はなむけ)の言葉だった。


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