敏腕CEOは初心な書道家を溺愛して離さない
 年に何度かある書道展に作品を出すのも仕事の一つである。
 先ほど師匠が言っていたのはその書道展の話だ。

 この『東部書道展』という展覧会は会派を問わず参加できるもので、歴史もあり有名なものだった。

 香澄も毎年出品している。
 作品を書くためにはまずは『何を書く』かを考えなくてはいけない。

 そして書いたものを師匠に見てもらったり、会の中での錬成会という一日中書く日などもあってそこでも練習を重ねる。
 半年ほど前から準備を開始するものなのだ。

 香澄はお手本となる本の中から印象深い言葉を書き出して書にすることにしていた。
 おそらく師匠が手にしていたのもその参考資料になりそうな本なのだろう。

 お稽古用の部屋にはそういう参考資料がたくさんあった。
 香澄はその本棚の前に立ち、なにか書の参考になるものはないかとチェックを始める。

「柚木さん、最近なにかあった?」
 夢中になって本棚を見ていた香澄はそう声をかけられて、思わず手を止める。

 師匠が香澄のことをにこにことしながら見ていた。
「いえ……なにもないですよ?」
 強いて言えば、お見合いをした。

 けれどあれはお断りして終わりとなったのだし、香澄はもともと身代わりだったのだ。
 出会ったのは素敵な人だったけれど、それは終わったことだ。
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