敏腕CEOは初心な書道家を溺愛して離さない
 今回も同じようにするのだが、いつもより深く自分の中にあるものを見つめ直さなければいけないかもしれないと覚悟を持って、香澄は再度本に向かった。

 しばらくした時だ。
「香澄ちゃん」
 母が呼んでいる声に香澄はハッとする。香澄はつい集中してしまって周りが見えなくなることがあった。

「はい!」
 部屋の入口で母はなんとも言えない顔をしていた。

「香澄ちゃんのお客様がいらしてるんだけど……」
「お客様?」
「ええ」

 母の歯切れが悪い。
 客間に向かうと父が困ったような顔をしていて、その向かいにあの榛色の髪が見えたのだ。

 ──え⁉︎ 嘘? 嘘でしょう?
 もう会うことなんてないと思っていた。神代佳祐その人だった。

「か、神代さん⁉︎  どうして?」
「どうして? 俺は必ず追いかけてあなたのことを捕まえると言ったでしょう?」
 神代は香澄に向かってとても綺麗な微笑みを見せた。

 香澄と神代は柚木家の庭を二人で並んで歩いていた。
 なんと言葉を発したらいいか分からず香澄はただ黙って神代の隣を歩くことしかできなかった。

それに今こうして神代が隣にいることも信じられない。
 ちょっとだけ軽く頬を捻ってみた。
(痛い……やっぱり夢じゃないみたい)

 くすっと隣から笑い声が聞こえる。
「今、頬を引っ張った?」
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