敏腕CEOは初心な書道家を溺愛して離さない
「よくできました」
 思わずといった感じで隣にいた神代が香澄を抱きしめる。
 爽やかな香水の香りが鼻に届き、抱きしめられても香澄は怖くなかった。

 ──怖く……ない。
 むしろその腕の中は安心すらできるようなものだった。
「一緒に映画に行ってくれる?」

 抱きしめたまま囁かれて、香澄は笑ってしまった。
「行きましょう」
 ぎゅうっと香澄を抱く腕が強くなる。
「本当にあなただ……」

 まるでやっと呼吸ができた人のようなその吐息混じりの声に必死さを感じて、思わず香澄は神代の広い背中に手を回してしまった。

 自分を探し出してくれた。
 香澄は諦めたのに、この人は諦めなかったのだ。
 そのことをとても尊く感じた。

「神代さん……」
「ん?」
「探し出してくれて、ありがとうございます」
「こちらこそ。見つかってくれてありがとう」

 ん? と思わず顔を上げると神代がとても優しい顔で微笑んでいた。つられるように香澄は笑ってしまった。

「もう! なに言ってるんです?」
「ああ、やっぱり可愛い。その笑顔が見たかった」
 こうして交際することとなった二人は連絡先を交換したのだった。

 しかし、神代はやり手と呼ばれる会社のCEOであり、香澄は半年後に展覧会を控えた書道家だ。
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