敏腕CEOは初心な書道家を溺愛して離さない
 まるで神代があの綺麗な顔で微笑んでいる姿が見えるようだった。
 心が暖かい気持ちになって香澄は通話を終える。

 また今度……と通話を切るときは寂しくて本当に心がちぎられるかのようだった。
 さっきまで神代と話していたスマートフォンを香澄は胸にきゅっと押し当てる。

 ──神代さん、大好きです。
 いつか本人にそう伝えることが香澄の夢になった。


「先生、見ていただいてよろしいですか?」
 教室で生徒が前にいる香澄に細い毛筆で書かれた紙を持ってきた。
 生徒といっても香澄よりもだいぶお年を重ねた奥様だ。

 持ってきたのは親しい人に送る手紙だった。
 平日の昼間の教室は時間を持て余したご婦人や、改めて字を習いたいという紳士が生徒さんであることが多い。

 練習の際には練習用の半紙を使っているが、香澄に見てほしいと持ってきた毛筆は紙にもこだわり、墨が綺麗ににじむような用紙を使っている。

「お手紙、完成しましたか?」
 香澄はふわりと笑った。
「はい」

 生徒さんである奥様は恥ずかし気に微笑んで香澄に紙を渡した。
 彼女は学生時代からの友人に送る手紙を毛筆で書き進めていたのだ。

 香澄はそれを見ながらアドバイスをする。
 奥様は熱心にメモを取っていたが、今回は実際にその紙を手紙として出すので直接の添削はしない。
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