敏腕CEOは初心な書道家を溺愛して離さない
 大人のお稽古には実践が伴うこともあるので臨機応変に対応するようにしているのだ。

「私が出すお手紙をお友達が楽しみにしているんです」
「素敵ですね」

「ほら、今はメールとかメッセージといいますの? さっと送れるものがあるでしょう? 手書きのものは少ないですからとても喜ばれるんです」
「確かにその通りですね」

 香澄も神代に送る時はメッセージアプリでのやり取りが多い。
 書道をやっているけれど、毛筆で手紙を送るということは考えたことがなかった。

 振り返ると情報をリアルタイムで送れるメッセージの授受で完結させてしまうことが多いのだ。
 そう思うと必要最低限なやり取りしか神代としていないような気がして香澄は手紙を神代に送りたくなってしまった。

 生徒からは自分が教えることだけではなく学ぶべきことも多い。

「私もお手紙を書いてみようかしら?」
 香澄が言うと奥様は微笑んだ。
「先生は文字もお上手ですし、先様もきっとお喜びになると思いますよ?」

 香澄は頭の中で早速文章を練り、手元のメモに書きつけていったのだった。
 生徒がみんな帰った後、香澄は細い毛筆のペンを取り出して、教室にある和紙を丁寧に見てゆく。

 その中で薄桜色の綺麗な紙を見つけたので、丁寧にそれを取り出した。
 そして、下書き用の紙も一緒に取り出す。
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