敏腕CEOは初心な書道家を溺愛して離さない
 役員用の執務室の大きなデスクと三面で置かれているパソコンモニターから神代が顔を上げる。げんなりとした表情を隠そうともしていなかった。

「当然ですね。どうしてこうもスピード感がないんだ。夕食までお付き合いしたのだからさっさとしろというんだ」
 神代CEOの暴言は執務室が防音である関係で外に漏れることはない。慣れている秘書の高村(たかむら)はさらっと流した。

「ご苦労の甲斐がありましたね」
「担当部署にすぐ投げてプロジェクトを進めてもらえますか?」
「そのようにさせていただきました」

 先ほどから神代の前にいる秘書は神代が業務取締役をしていたころからついてくれている秘書で、神代のことは知り尽くしているのでこれくらいのことは指示をしなくても進めてくれる。

 神代もそれを十分に承知してはいるのだが、それでも念のために自分の意志は伝えるようにしている。
 察するというのは美しいことだと思うがそれによって仕事に漏れが発生するようなことを神代は好まないのだ。

 秘書である高村もそれを知っているので細かい報告は漏らさない。お互いに察しが良くても口に出すことでコンセンサスを得ることが大事だと分かっているからである。

「あと……柚木香澄様という方をご存じですか?」
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