敏腕CEOは初心な書道家を溺愛して離さない
 本当に一度本気で叱っておかなくてはいけない。愛娘をからかってはいけないのだ。

 香澄が外出する際は父が運転手付きの車を手配してくれている。
 今日も出かける際はその車を使う予定だが、帰りは神代が送ってくれるということだった。

 行き先は住宅地の中にある隠れ家的なフレンチのお店を選んでくれていた。

 香澄がいつもの運転手に行き先の住所を告げると「はい」と声が聞こえて車は静かにスタートする。

「帰りのお迎えは不要とお伺いしておりますが、大丈夫でしたね?」
「ええ。一緒にお食事へ行く方が送ってくださるということなので」
「そうですか。それはよかったですね」

 馴染みの運転手はにこにこしている。香澄が華やかに装っていて、帰りにお迎えが不要ということで察するものがあったのかもしれなかった。

 車はこんなところを? と思うような道に入っていき、一軒の洋館の前でゆっくり止まった。
 門をくぐった奥には駐車場が見えたので、ここが店で間違いはないようだ。

「ありがとう」
 お礼を言って香澄は車を降りる。

 車寄せからは建物の手前にガーデニングと小さな噴水が見えていて、とてもよい雰囲気だった。

 香澄が可愛らしい庭を見ながら入口に進んでいくと玄関の手前に腕時計で時間を確認している神代の姿が見えた。
< 40 / 196 >

この作品をシェア

pagetop