敏腕CEOは初心な書道家を溺愛して離さない
「自由すぎる!」
(雷が落ちたわ)
 香澄は苦笑する。

「大体、本当は今週末見合いをするはずだったんだ。家を出るだけならともかく、置手紙をして家出状態だ」
 吐き捨てるような伯父の声には同情するが所詮は他人事だ。

「あらら。そうだったんですね」
 それはお見合いが嫌だったのでは? と思うけれども、香澄は口にはしなかった。

「頭が痛い。散々探しているが、どうやって隠れたものだか見つからない。見合い相手は大手コンサルティング会社のやり手CEOなんだ。取引相手でもあるし、こちらからの失礼は許されない」

「大変ですわね」
 伯父がまたじっと香澄を見ている。
(ん……?)

「香澄は菜々美とも年齢が近かったな。いや、むしろお前の方が年上だったのではなかったか?」
 大学出たてのピチピチの菜々美は二十三歳で、確かに香澄はその三歳年上で二十六歳だった。

 大きな声では言いたくない。童顔だから幼く見えるだけだ。
「ま……あ、私の方が年上、かも?」

 菜々美は伯父夫婦が年を重ねてからできた愛娘だった。
 その分、わがままに育ってしまったこともやむないことなのではないだろうか。

「従姉妹ならそれほど変わらないだろう」
 先ほどまで取り乱したようすだったのに、伯父は急に落ち着きを取り戻し始める。
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