敏腕CEOは初心な書道家を溺愛して離さない
(え、ちょっと待って。それは……)

「兄さん……」
 父の咎めるような声にやっと香澄は危機感を感じ始めていた。

「伯父様? どういうことかしら?」
 声が震えそうだ。
「交際相手でもいるのか?」

「いませんけど」
 自慢ではないがなんなら生まれてこの方、香澄は男性と交際というものをしたことがない。
「ちょうどいい」

(ちょうど!? ちょうどとは!?)
 心の中で叫ぶことはできても、現実にはどうしたらいいのか分からずおろおろとしてしまう香澄だ。

 嫌な予感はするものの逆らう術を持っていなかった。
「あの……どういう?」
 これが現実なのだとは信じたくない。

 お見合い? いつだと言った? 今週末!?
「さっき言っていたのを香澄も聞いていただろう。こちらから失礼をするわけにはいかない相手なのだ。それにお前だって交際相手はいないと言っていたじゃないか」

 確かに言った。言ったけども!
「私……無理です! それにお相手は菜々美ちゃんだと思っているのですよね?」

「大丈夫だ」
 そう言って、伯父は香澄をまたじっと見る。
 香澄はその視線を手で払えるものなら払いたかった。
「お前は若く見える」

(そういう問題じゃないんですっ!)
「いや、兄さん本当に香澄は無理ですよ」
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