敏腕CEOは初心な書道家を溺愛して離さない
 突然名前で呼ばれたので驚いた香澄の食器がカチャカチャっと音を立てる。
 動揺した香澄がカトラリーを滑らせてしまったのだ。それでも嬉しくないかといえば嬉しい。

 神代も驚いたようだったが、香澄が動揺した理由を察して口元を手で抑える。
 自分の失言に気づいたようだ。軽くため息をついたあと、咳払いした。

「実は最近いつも心の中では香澄さん、と呼んでいたんです」
「は……い」
 そう呼ばれても構わないし、正直に言えば呼ばれただけでどきんとした。

「香澄さん、と呼んでも構いませんか?」
「はい……」
 とても嬉しかった。
「俺のことは?」

 名前で呼んでほしいということだろうか。
 香澄は動揺しすぎて顔が真っ赤になるし、心臓がばくばくと大きな音を立てて困る。

 名前はもちろん知っているが、口を開こうとすると喉が詰まってしまう。
 香澄にはまだハードルが高いと神代も察したようだった。苦笑して首を傾げる。

「まだ、ハードルが高そうですね?」
 赤い顔のまま、こくんと香澄は頷いた。
「では、名前はおいおいということにしましょう」
 無理強いしない優しさが好きだった。
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