敏腕CEOは初心な書道家を溺愛して離さない
 父の横でこくこくっと香澄は頷く。
 香澄は押しも押されもせぬ女子校育ちだ。それに社会に出ていないので、箱入りであることにも自信がある。
 そんな自信はどうなのかと自分で思わなくもないが。

「なんでだ?」
 兄弟で経営している不動産会社ではワンマンで知られる伯父だ。
 強く返されるとさすがに迫力がある。

「だって、ずっと女子校で育ってきたんです。知らない方とそんな風にお見合いでお話なんて、きっとできません」
 香澄は一生懸命、無理な理由を説明したつもりだった。

 けれど、伯父はご機嫌になっただけだ。
「なおさら、お見合い相手としてはちょうどいいな。身持ちが固いのは良いことだ。それにこんなことでもなければ結婚の機会もないだろう。いやなら断ればいいんだ。とりあえず週末はお見合いをしなさい」

 いや……と伯父は軽く咳払いをすると、今度は香澄に向かって思いきり頭を下げた。
「助けると思って! 頼む! 香澄、見合いに行ってくれ!」

 強く言われれば反発もできるけれど、頭を下げている人を足蹴にすることは誰しもできないだろう。

(ず……ずるいわ、伯父様っ!)
「お父様っ! なんとかしてください」
「いや……確かにこうでもなければ、香澄の花嫁姿を見ることができないかもしれない……」

 ──お父様の裏切り者っっ!
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