敏腕CEOは初心な書道家を溺愛して離さない
 こうして香澄は従姉妹の菜々美の身代わりとしてお見合いをすることとなったのだった。

 当日は呆れるほどの晴天だった。
 香澄は自分の部屋の窓から雲一つない空を見上げる。
 この晴天に反して心の中はどんより曇っているというのに。

 今日は振袖で来るようにと伯父に言われていた。
 香澄は着物にも慣れているけれど、さすがに振袖の着付けは自分ではできない。

 しかも菜々美のために用意された振袖は派手すぎて、香澄にはお世辞でも似合わなかった。だから、着物は自分で用意をした。

 いつも書道の表彰式などでお世話になっている美容院の先生に自宅まで来てもらって着付けをしてもらう。

「柚木先生、今日は可愛いお着物ですねぇ。まるでお見合いみたいだわ」
 香澄は鏡の前で軽くため息をつく。

「その通りなんです」
「あ……ら。あらあら、まあまあ。じゃあ、可愛く仕上げましょうね」

 どうして着付けの先生がこうも嬉しそうなのか。
 オフホワイトの生地に桜と明るい紫の鹿の子を足元にあしらった柄は縁起もよく、見た目にも明るく華やかだ。それでいて落ち着いている。

 それに銀糸の帯と濃い紫の帯留を合わせると振袖でも年相応の落ち着きが出た。
 髪は綺麗にまとめて花を散らされる。
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