敏腕CEOは初心な書道家を溺愛して離さない
 明らかにメンズものと思われる香水の香りがした。力強い腕や自分とは違う身体つきに本当にどきどきしたのだ。

 好きと言ってしまった。
(神代さんも……神代さんも? あれ?)

 香澄が好きと言った記憶はあるが、好きと言われた記憶はないような気がする。

「あ……あれ?」
 確かに少しぼうっとしていたけれど、あまりにもいろんなことが衝撃的すぎたので記憶ははっきりしていた。

 間違いない。可愛いと言われた覚えはある。我慢しているので誘惑はしないでほしいとも。
 けれど、好きだと言われた記憶がないのだ。
 香澄の顔から血の気が引いた。

 まさか今さら好きではないということはないと思うが、言葉にしてもらえなかったことに不安が残る。香澄は口にしているのだから。

(好きじゃないってことはないと思うんだけど……)
 考え始めると止まらなくなってしまった。
 ──好き……だよね?

 * * *

 その頃自宅マンションに戻った神代は駐車場に車を停め、ハンドルに顔をうつぶせていた。
(か……可愛過ぎるだろう! 俺の彼女!)

 香澄が好きと言われていないことで不安になっているなんて神代は思いもしていない。
 今日あった様々なことを思い返すと香澄が可愛くて愛おしくて、帰り際にキスをしてしまった。
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