敏腕CEOは初心な書道家を溺愛して離さない
 香澄が前菜を口に入れた時、その顔からは『おいしい!』と言葉にされていなくても表情からこぼれ出ていて微笑ましいものだった。
 香澄に対して可愛いな、と思ったのはそれが最初だ。

 ぱくぱくと嬉しそうに食事を進めていく姿は本当に可愛らしく小動物のようだ。
 写真の気の強そうな印象など、どこかに行ってしまった。

 ──(はしばみ)色……と。
 色素が薄く、彫りの深い顔立ちなので「ハーフなの?」と聞かれることはたまにあるが、その瞳や髪の色を榛色と称されたことはなかった。

 その表現が神代はとても気に入ってしまったのだ。
 だから、適当に顔合わせを済ませたら帰るつもりにしていたのに、香澄をお気に入りの噴水パフォーマンスに誘ってしまった。

 瞳をきらきらと輝かせながら噴水を見ている香澄の横顔を見つめ、胸がぎゅっと絞られるような気持ちになったものだ。

 もしもここでこのお見合いを断ったら、この彼女はまた誰か他の人とお見合いをして、誰か他の人のものになってしまうのかもしれない。

 そんなことを考えるとそれが許せないような心地になった。

「ご趣味は? とか聞くものなんですかね?」
 そういうと「まあ……」と言ってくすくす笑う。

 その笑い顔が可愛くてぽろっと可愛いといってもお上手なんですねとさらりと流されてしまって、少し神代は焦った。
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