敏腕CEOは初心な書道家を溺愛して離さない
 神代はガックリと肩を落としている父親に優しく言った。
「柚木さん、誓います。無茶は絶対にしません。香澄さんの気持ちに反して無理強いすることもしないとお約束します。俺はただ……あの時会った香澄さんにもう一度お会いして、本当のことを聞きたいだけなんです」

「そうでしょうね……神代さんはとても誠実な方だ。お任せいたします」

 それでも気持ちが落ち込むのは父親として娘を手離さなくてはいけない可能性がでてきたからだろう。

「大事にします」
 心からそう言うと顔を上げて、柚木の父親は微妙な感じで笑った。


 神代は車を出てマンションに向かい、ポストを開ける。
 香澄にはあの後自宅の住所をメールしたので、今後手紙が送られてくるとしたらこちらだ。

 同じことがあるとも限らないのに、ポストを開けることがこれほどの楽しみになるなんて、神代は想像してもいなかった。

 あいにくと先ほど会ったばかりで手紙が送られてくることなんてないのに、きっと毎日こんな気持ちでポストを開けるのだろうということは予想がついた。

 部屋に入った神代はまずスーツの胸ポケットから以前に受け取った手紙を出し、リビングのテーブルの上に置く。

 それから、寝室のウォークインクローゼットに向かった。
 部屋着に着替えて、リビングでゆっくりくつろぎながら、今日のことを思い返していた。
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