敏腕CEOは初心な書道家を溺愛して離さない
7.香澄ちゃんの冒険
 名前で呼ぶこともそうだが、恋愛には超えなくてはいけないハードルがたくさんあるらしい。
 それでも、神代と離れることを考えたくはなかった。

 きっとこれからも香澄の前にはたくさんのハードルが現れるはずだ。その度に逃げてはいられない。
 香澄はベッドの上で愛用のクッションをきゅっと抱きしめた。


「柚木さん、東部書道展に出す文字は決まりましたか?」
 香澄がお稽古で文字を練習していると師匠にそう声をかけられ、香澄は顔を上げる。

 書道展に出す文字はまだ決まっていない。正直を言えばそれどころではなかったのだ。けれど、そうもいっていられないだろう。

 立ち上がった香澄は師匠に頭を下げる。
「すみません。まだ決まっていなくて……」
「もちろんまだ時間はあるから大丈夫です。珍しいですね。迷っていますか?」

「いえ……まだしっかり自分が書きたいものに向き合えていないというか……迷っているというところまでもいっていませんね」
 自嘲するような笑みしか浮かんでこなかった。恋愛のことでばかり悩んでもいられない。やらなければならないこともあるのだから。

「もう一度、自分が書きたいものを見つめ直します」
「とてもいい顔をしていますね」
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