敏腕CEOは初心な書道家を溺愛して離さない
 菜々美はメールアプリで家から少し離れた駅の小さな割烹を指定してくる。
 香澄は一人で料理屋など行ったことはなかったが、菜々美が一緒ならばなんとかなるだろうと冒険をする決意をしたのだ。

 香澄にしてみたら、自宅から離れて訪れたことのない駅に行くのすら冒険だ。
 日にちは来週で、香澄の教室が終わってから行くことにした。


 その日香澄は生徒さんたちを見送り、カバンを持ってどきどきとしながら駅に向かった。

 一人で出かけることももちろんあるのだが、家に黙って出てくるということはほとんどない。
 それは子どもの頃のことがあるからだ。

 それでも今日は菜々美に会うと決めて香澄は教室の電気をつけたままにして、鍵を閉める。
 家族は教室の電気がついていたら、香澄が書いていることもあるので邪魔はしないでくれるはずだ。

 香澄は電車で見知らぬ駅へと向かう。
 初めてのことでどきどきしたが、菜々美に会わなくてはという使命感が香澄を突き動かしていた。

 駅からは菜々美がメールアプリで地図を送ってくれていたので、香澄は迷わず店に辿り着くことができる。

 白木の引き戸の横に小さく『よしの』と看板が出ていて、店の前は綺麗に掃き清められている。
 引き戸の手前には石畳と辛うじて言えるほどの石畳があり、丁寧な盛り塩をしてあり印象が良い。
< 75 / 196 >

この作品をシェア

pagetop