敏腕CEOは初心な書道家を溺愛して離さない
 到着したら連絡してほしいと言われていた。香澄は菜々美の携帯を鳴らす。菜々美は待っていてくれたようで、すぐに電話に出てくれた。

『香澄ちゃん? すぐ行くね!』
「うん」
 電話を切ると即座に目の前の割烹の引き戸がカラカラと音を立てて開く。

 そこには着物姿に白い前掛けをして、長かったロングヘアをバッサリと切ったショートボブも可愛らしい菜々美の姿があったのだ。
「香澄ちゃん!」

 驚く香澄をよそに菜々美は嬉しそうに満面の笑みになり、ぎゅうっと香澄をハグする。
「な……菜々美ちゃん!?」
 その姿は飲食店の店員そのものだった。

 菜々美は香澄の腕を引いて店の中に連れてゆく。
 店の中はカウンターと小さなテーブルが三つほどだけあるだけのこじんまりとした店だ。

 カウンターの奥では男性が「いらっしゃい」と香澄に向けて声をかけ、黙々と料理をしている。

「大ちゃん、私の従姉妹の香澄ちゃんよ。香澄ちゃん、私の……彼氏の吉野大輔くん、大ちゃん」
「いらっしゃいませ。こんにちは。吉野です」

 カウンターの向こうにいた男性は少し愛想はないけれど優しそうな人だった。

「はじめまして。柚木香澄です」
「すみません。開店前でバタバタしていて。ゆっくりしていってください」
「もう! 大ちゃん、堅苦しいわ!」
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