敏腕CEOは初心な書道家を溺愛して離さない
「もしかして、お手伝いさんは行き先も知っているの?」
「まさかぁ! そんなこと隠させるのは申し訳ないもん。私の行き先は言ってないよ。香澄ちゃんの話を聞いただけ」
 気が利くのかわがままなのかよく分からない。

「帰る気はある?」
 菜々美は首を横に振った。こういう時の菜々美は香澄が言ったって梃子でも聞かないことを香澄は十分に分かっている。
 香澄は軽くため息をついた。

「でも真面目にちゃんと考えたりきちんとしているようだから、今は黙っておく。けど、いずれちゃんと……」
 するようにと言おうと思ったら、香澄のスマートフォンが鳴っているのが分かった。

「通話だわ」
「家からなら、私は帰らないからっ」
 頑固な顔になってしまった菜々美を置いて香澄はスマートフォンを手に取る。
「だって菜々美ちゃんに会うことは言っていないのよ。まさかそんな……」


 香澄は菜々美に会いに行くとは誰にも言っていない。そんなことは分からないはずなのだ。
 画面には『神代佳祐』と表示されている。どうしたのだろうか?

「はい……?」
『香澄さん! 今、どこにいるんです!?』
 受話器からは意気込んだ神代の声が飛び出すように聞こえてきた。
「ふぇ?」
 素っ頓狂な声が出てしまった。
< 80 / 196 >

この作品をシェア

pagetop