敏腕CEOは初心な書道家を溺愛して離さない
「香澄さんがやると判断されたことを、俺になにか言うことはできません。それに……香澄さんが書いているところを見られるわけですし」
 香澄は目を反らしている神代の視界に入るようにひょこっと首を傾げた。

「普通ですよ?」
「参りました。お願いします」
 香澄はにっこり笑う。白い紙を目の前にして筆ペンを握った。

(先が本物の筆と似たようなペンね)
 普段たまに使ったりするものなので書く時の力の入れ方や抜き方も分かっている。

 念のために、とめとはらいを別の紙に簡単に練習してみた。大丈夫そうだ。
 汎用型のペンなので書き心地に大きな差はでない。

 今回はお店のお客さんが見て分かるように書けばいいので文字としては見やすさ重視である。

『平素より当店をご利用いただきまして、誠にありがとうございます。
 誠に勝手ながら、当店は本日お休みをいただきます。またのご来店を心よりお待ちしております。 店主』

 白い紙に読みやすく、かつ親しみが持てるような文字を意識して書いてゆく。若い店主らしく失礼にならない程度にデザインも取り入れた。

「ん、吉野さん、こんなものでいいですか?」
 書き終わった紙を香澄は目の前に掲げた。周りの三人がきらきらとした目で香澄のことを見ている。

「すごい香澄ちゃん! カッコいい!」
「完璧です」
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