敏腕CEOは初心な書道家を溺愛して離さない
「あの……重くないですか?」
「全然。そんなことより反省しましたか?」

 怒っているはずなのに、どこか甘い顔は香澄を戸惑わせるばかりだ。
 距離も近いし、誰かの膝の上なんて物心ついてからは乗ったことはない。

「反省しました」
 真面目にそう言わないと許してくれないような気がしたし、神代に心配をかけたことは香澄は心から反省していたのだから一生懸命香澄は伝える。

 神代が零れかけた香澄の目に浮かんだ涙を指先で拭ってくれた。
「こちらこそ、ごめんなさい。泣かせるつもりはなかった」
「いいえ。神代さんは怒って当然です」

「ではお願いを一つ聞いてもらおうかな? おしおきもまだでしたね」
 怒っていたはずの神代はなんだか妙に楽しそうになってきて、んん? と香澄は首を傾げる。

「おしおき……」
 お願いとおしおきとは?

 
「お願いです。俺のこと、名前で呼んでください」
 掠れたような神代の声を聞いて、香澄は胸がぎゅっとなった。
「名前……ですか?」
 名前はもちろん知っている。

「佳祐……さん」
「はい。なんですか? 香澄さん」
「もう、呼べって言ったから呼んだだけなのに」

 言われた通りにしただけなのになんですかと聞かれてしまって、香澄は神代の胸を軽く叩く。
 それすらも神代は楽しそうだった。
< 99 / 196 >

この作品をシェア

pagetop