復讐は溺愛の始まり 〜一途な御曹司は愛しい彼女を逃がさない〜
 水泳じゃないけど、以前マラソンの選手が長距離は自分との戦いだなんて言っていたのを思い出す。ああいう持久力が必要なスポーツは、自分に甘えを許さない強い意思のある人じゃないとできない。意外にも彼は自分に厳しい人なのかも……と思ってしまう。

 (それにしても、なんだか想像していたのと全然ちがう……)

 バーで見ず知らずの私をこうして助けてくれたり、趣味だって、もっとこう御曹司的にイタリアの某高級スポーツカーを乗り回すのが好きだとか、豪華な船上パーティーに行くのが好きだとかそんな事を言うのかと思っていた。なんて言ったって、あの穂月百合香の恋人なのだ。

 でも彼に傲慢や横柄なところは何もない。よく見れば、このマンションだっておそらく億はするに違いない立派な部屋なのに、家具やインテリアなどは派手ではなくシンプルでとても落ち着いている。


 「君の趣味は?」
 「えっ?私の趣味……ですか?」
 「そう。休日は何をしてる?」
 「休日……ですか?」

 突然彼に尋ねられ、去年結愛と一緒に屋久島へ行った時のことを思い出した。あの苔に覆われた太古の森を一緒に歩いた記憶は、今でも楽しい思い出の一つだ。

 「水泳みたいな過激なスポーツじゃないんですけど、ハイキングや山登りには妹とよく行きます」

 「妹がいるのか」

 (あ、しまった──…)

 迂闊に結愛のことを口走った自分に、一瞬青ざめ片手で口を覆うものの、彼はただひたすら優しい眼差しで私を見ている。


 「……は、はい……。昔からなんでも一緒にするというか、妹は私のすることはなんでも一緒にやりたがってしまうんです。だから自然になんでも一緒にしてしまうというか……。よく買い物に行ったり、旅行に出かけたりするんです」

 「姉妹で仲がいいんだな」

 「よく言われます」

 私はへへっとちょっとだけ照れ笑いをした。

 今時そんな仲がいいの珍しいね、と不思議な目で見られることがある。もちろん結愛と喧嘩をすることもあるし、お互い腹が立って1日中口をきかない時だってある。でも大抵一晩寝たら水に流すことにしている。
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