復讐は溺愛の始まり 〜一途な御曹司は愛しい彼女を逃がさない〜
 (もう……わたし……一体なにやってるのよ……)

 ビルの間の狭い路地まで逃げ込むと、はぁはぁと荒い呼吸を整えながら弱々しくビルの壁に寄りかかった。

 復讐だ、寝取るだなんて言っておきながら、肝心な証拠写真もなにもとれていない。

 (結局私はあそこに何をしに行ったの……)

 ビルに寄りかかったまま目を閉じると、そのまましばしその場に立ち尽くした。


**


 電車の窓からぼーっと外を見ながら、コツンとドアに寄りかかった。澄んだ朝の空に朝日が昇っていくのがビルの合間から見える。

 そっと目を閉じると、今でも鮮明に彼の荒い息遣いや真剣な瞳、私の名前を何度も囁く低く掠れた声が脳裏に浮かんでくる。


 復讐をすれば……東儀崇人を寝取れば……結愛を傷つけた代償をあの穂月百合香に払わせたと、仕返しをしてやったと、スッキリするんだとずっと思っていた。ざまぁみろとか、そんな勝ち誇った気持ちになると思ってたのかもしれない。

 でも彼と一緒に一晩過ごして私の中に残ったのは、復讐というドス黒い感情が全て吹き飛んでしまうほどの彼の温かさや優しさだった。

 (私って本当に馬鹿だな……。一体なにを期待してたんだろう)

 急に鼻の奥がツンとしてきて慌てて溢れそうになった涙を拭った。もう私の心の中はぐちゃぐちゃでなにがなんだかわからない。

 彼が恋しくてもう一度会いたいとか、あんな風にいつも愛されている穂月百合香が羨ましいとか、媚薬を飲ませて騙した事を後悔してるとか、心が切なくて、悲しくて、痛くてしょうがない。

 (復讐なんて馬鹿な事を考えるからこんなことになるのよ……。自業自得だよ)

 私は俯いてギュッと目を閉じた。


 『逢莉……』

 今でも私の名前を囁く掠れた声が聞こえる。彼が私の中に刻み込んだものは、今も色鮮やかに心の中にも体の奥底にも残っている。

 (ほんと……わたし、何やってるのよ……)

 ギュッと自分を抱きしめると、俯いて肩を小さく震わせた。

 今はただ、彼が恋しかった。
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