復讐は溺愛の始まり 〜一途な御曹司は愛しい彼女を逃がさない〜
 「ポーン」という音と共に20階でドアが開くと、柚葉さんの後に続いてエレベーターから降りた。

 そこは、明らかに先ほどの階とは違うなんだかやけに立派なフロアになっている。しかも厳重なセキュリティーになっていて、柚葉さんが特別なセキュリティカードでガラス張りのドアをピーっと解除する。

 
 「あ、あの、ここは……?」

 ふかふかの絨毯の上を歩きながら、なぜか背筋に悪寒が走って彼女に思い切って尋ねてみた。正直な話、嫌な予感しかない。

 「役員フロアです。橘花さんには今日から社長の専属通訳になっていただきます」

 目の前が真っ暗になった。

 
 社長!?専属!?なにそれ!?


 「東儀社長、お連れいたしました」

 彼女は廊下の一番突き当たりにある重厚なドアをノックした。

 「入ってくれ」

 あの低くて体の芯まで響くような声がドアの向こうから聞こえる。ドアが開くと、そこは全面大きな窓ガラスで囲われた、明るくて高級感溢れる社長室になっている。

 その大きな窓ガラスの前に立って外の景色を眺めていた長身の男性は、ゆっくりと振り向いた。


 と、東儀崇人──…


 密かに別の東儀社長がいるのではと期待していたが、どうやらそんなことはないらしい。彫りの深い端正な顔はあの夜のまま。バーで会った時と同じ凍りつくような冷たい切れ長の目が私を貫いた。


 (ま、まさか、こんなことになるなんて……)
 
 確かに通訳という仕事柄、企業の重役やVIPと一緒に仕事をする機会は多い。それにしても、社長の……東儀崇人の専属通訳だなんて……。

 寒いのに、つっと汗が背筋を這った。彼は私の頭のてっぺんからつま先までゆっくりと視線を這わせると、徐に口を開いた。

 
 「社長の東儀崇人だ」

 「こ、この度ブリッジ・インターナショナルから派遣されました、通訳の橘花あ………通訳の橘花です。よろしくお願いします」

 『逢莉』とあの夜、彼が何度も私の名前を囁いていたのを思い出して、口籠もりながら頭を下げた。

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