復讐は溺愛の始まり 〜一途な御曹司は愛しい彼女を逃がさない〜
 「橘花です。お呼びと聞きましたが……」
 「入ってくれ」

 恐る恐るドアを開けると、デスクの上に両手を組んだまま、まっすぐに私を見据える彼と目が合う。

 「今日の会議の資料だ。通訳するのに事前に資料を読みたいと言っていただろ」
 「は、はい……」

 前へ進み出ると、午後にある欧州の現地法人との経営会議で使う書類に手を伸ばした。すると彼は突然手渡そうとしていた書類をバサリとデスクに置いて椅子から立ち上がった。

 「なぜ電話を取らない?」
 「えっ……で、電話?」
 「そう、電話だ」

 そういえば週末に何度か知らない番号から電話がかかってきていたのを思い出して、慌ててポケットからスマホを取り出す。

 「俺のプライベートの番号だ。連絡先にちゃんと登録しておけよ」
 「えっ……あ、はい……」

 なぜプライベートの番号なんてくれるんだろう……と疑問符を浮かべながら履歴にある番号を凝視していると、彼は少し不機嫌な顔をしながらデスクをまわって歩いてきた。その威圧感というか圧力感に足が震えて一歩後ずさる。

 「なぜまた俺から逃げた?」

 そんなの決まってる。望みのない恋をして傷つきたくないから、彼からも、そして自分自身の気持ちからも逃げ回っている。

 顔を伏せたまま黙り込んでいると、温かくて大きな手がそっと私の頬を包み込んだ。その途端、彼の体温が私の中に染み込んできて、震える息を呑み込んだ。

 否応なしに二人で狂ったように抱き合ったあの夜が走馬灯のように脳裏に浮かんでくる。思わず自分をギュッと抱きしめた。

 ( ……だめだ。まだ媚薬が体に残ってる。どうして……どうして効果が消えないの……?)
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