スパダリ救急救命士は、ストーカー被害にあった雑誌記者を溺愛して離さない~必ず君を助けるから。一生守るから俺の隣にいろ~
「おかーさん、あのおねーちゃん、嫌がってる」
 女の子が母親のズボンを掴みながらこちらをじっと見ている。

「あ、びっくりさせてごめんね~。ほらルカちゃん、俺と一緒に避難するよ」
「イヤ! 離して!」
 泣きそうなのに睨んでくる瑠花の目を虎二郎はニヤニヤと眺める。
 やはり様子がおかしいと赤ちゃん連れのお母さんがスマホをポケットから取り出すと、虎二郎は母親を睨みつけた。

「電話すんな!」
 蓮の部屋のドアを蹴り、大きな音がする。
 女の子も赤ちゃんも泣き出し、お母さんはスマホを慌ててポケットにしまった。

 通報できなくてごめんねという顔をされるのがツラい。
 私のせいで子どもたちが泣いてしまったのに。
 私の方こそごめんなさい。
 バタバタ足音と悲鳴が聞こえ、上の階の人たちが15階を素通りしていく。

「あ、あの。とりあえず避難しませんか……?」
 火事なんでしょう? と瑠花が見上げると、虎二郎はニヤッと笑った。

「じゃあ、一緒に行こっか」
 上機嫌になった虎二郎は瑠花の右手首にガチャンと手錠をはめる。

「えっ?」
 もう片方は虎二郎の左手首に。

「これでもう俺から逃げられないね。あ、鍵はないよ」
「え? それはどういう……?」
 鍵がないって何?
 一生このままってこと?
 スプリンクラーの水が掛かっても気にせずニヤリと笑った虎二郎の顔が怖くて、瑠花は刺激しないように大人しく従うことにした。
 上の階の人たちが通り過ぎ、赤ちゃん連れのお母さんが女の子の手を引きながら降りようとする。

「おかあさん、階段、怖い」
 少し段差が大きい階段は子どもには怖いみたいだ。
 困ったお母さんは女の子にがんばってと声をかけ続けた。

「はいはーい、じゃまじゃまー」
 虎二郎がお母さんを押しのけ、階段を先に下りようとする。
 お母さんと手が離れてしまった女の子はバランスを崩し、前のめりになった。

「危ない!」
 慌てて女の子の服を後ろに引っ張った瑠花は、今度は自分が前のめりに。

「あっ、おい、バカ!」
 虎二郎と繋がれた手錠で腕が後ろに引っ張られた瑠花は階段を五段ほどお尻で滑り落ち、虎二郎に腕を引っ張られてようやく止まった。
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