スパダリ救急救命士は、ストーカー被害にあった雑誌記者を溺愛して離さない~必ず君を助けるから。一生守るから俺の隣にいろ~

15.安心する香り

「おまえなぁ! くっそ、怪我したじゃねぇか!」
 虎二郎は痛ぇなぁとぶつぶつ文句を言っているが、たぶん私の方が重症だ。

 肩が抜けた気がする。
 お尻も痛い、足も痛い、なにより肩が痛い。
 どうしよう、冷や汗が出る。
 これは絶対マズい。
 しかもお尻に何か固いものが入っていたみたいだ。

「大丈夫ですか?」
 お母さんに声をかけられた瑠花は振り向きたいのにそれすらできない。

「あの、お子さんは?」
「うちの子は大丈夫です。ありがとうございます」
 ありがとう、ありがとうと何度もお礼を言ってくれるお母さんの声を聞いた瑠花は、痛みを堪えながら立ち上がった。

「さっさと降りるよ」
「あっ、は、はい。あの、ごめんなさい、足が痛いから少し、ゆっくりで……」
「へぇ、痛いときの顔もいいね」
 泣きそうで泣かないのも最高じゃんと口角を上げながら階段を下りていく虎二郎の言葉に、瑠花はゾッとする。

 肩が痛くて、足は多分捻っていて、お尻は……。
 痛かったお尻を触ると、ペンのような感触に瑠花はハッとした。

 ……これ、ペン型のICボイスレコーダーだ。
 お尻のポケットに入れたまま忘れていた。
 ご飯を作る前、床に落ちていたのを拾ってそのままポケットに入れたんだった。

 瑠花はこっそりペンの上部を押し、録音を開始した。

「ねぇ、おねーちゃん足が痛いから下りるの手伝ってくれる?」
 瑠花が女の子に声をかけると、女の子は泣きながらうんうんと頷く。
 一段勇気を振り絞って下りた後、女の子は普通に階段を下り始めた。
 怖いのは最初だけ、スーパーだって公園だって階段くらいあるのだから。

 瑠花は自分のものではないような腕を視界に入れないようにしながら、虎二郎の後ろをついて行く。
 12階まで下りると、ようやく消防車のサイレンが聞こえ始めた。

「おねーちゃん、足から血が出てるよ?」
「大丈夫だよ、ありがとう」
 瑠花はぎこちない笑顔でがんばって下りようねと女の子を励ます。

「あの、その手錠……というか、腕は大丈夫なの?」
「あ、……はい。大丈夫です」
 正直に言って、肩はマズいと思う。
 痛くて冷や汗が止まらない。

 みんなが階段を下りて行くので、蓮が助けに来るのは無理だろう。
 とても階段を上がって来られるような状況ではない。

 虎二郎と下まで降りたら、どこかに連れて行かれないように座り込もう。
 痛いと言い張って、足を見せれば少しくらい待ってくれるのではないだろうか。
 捻ったは信じてもらえないとしても、自分でも血が垂れているなとわかるくらいの傷を見せれば……。

 パンッと上の方でガラスが割れる音がする。
 悲鳴と足音とサイレンで怖くなった瑠花は自分に大丈夫、大丈夫と言い聞かせた。
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