スパダリ救急救命士は、ストーカー被害にあった雑誌記者を溺愛して離さない~必ず君を助けるから。一生守るから俺の隣にいろ~
「おっかしいなぁ。あんなのすぐに消えるはずなのに」
 ジャージャー降り注ぐ水と上の方から聞こえる割れる音に虎二郎は首をかしげる。

「……消えるはずってどういうことですか?」
 瑠花が尋ねると、虎二郎は嬉しそうな顔で振り向いた。

「火炎瓶を投げたんだ~」
「……ど、どこに……?」
「ちっちゃいの一個だけだよ」
 虎二郎が指を差したのはエレベーター。

「えっ?」
 まさかエレベータの中に火炎瓶を投げたの?

「上を押したから、大丈夫だよ」
 火炎瓶を投げ込んだエレベーターを上に行かせたってこと?
 待って、待って。
 大丈夫って全然大丈夫じゃなくない?

「ど、どんなのを、投げたんですか?」
「えー? 牛乳瓶に油を入れて布で蓋をしただけ。あ、この手錠の鍵も入れちゃったよ」
 だから鍵がないんだ~と虎二郎は笑った。

「……か、火炎瓶って、どうやって火をつけるんですか……?」
「ライターでつけてもらったよ?」
「つけてもらった?」
「火事だよーって言ったやつ」
 あぁ、あの人も共犯だったんだ。
 今の会話はちゃんと録音されているだろうか?
 ICボイスレコーダーがONになっているか確認したいけれどできない。
 お願い、ちゃんと録音できていますように。

「やっと10階……」
 もう足が痛い。
 この二週間、家から出なかったから体力も衰えているし、何よりも肩が痛すぎて頭がぼんやりしてきた気がする。
 8階、7階にはもう人はいない。
 どうやら私たちが最後みたいだ。

「……花! 瑠花ー!」
 蓮の声?
「れ……」
「答えるな!」
 振り返った虎二郎の表情に瑠花はゴクッと唾を飲み込む。

「こ、答えないから、そんなに怖い顔……しないで……」
 瑠花は震えながら虎二郎にお願いをした。
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