スパダリ救急救命士は、ストーカー被害にあった雑誌記者を溺愛して離さない~必ず君を助けるから。一生守るから俺の隣にいろ~
 やっぱりこの人、怖い。
 穏やかだと思ったら急に大きい声を出すし、なんかブツブツ言いながら階段を下りていたり、急に振り向いてニタッと笑ったり。

「おい、逆走すんなよ」
「すみません。妻がまだ上に」
 下から聞こえる蓮の声に虎二郎は舌打ちすると、瑠花を6階の階段からエレベータの陰に引っ張り込んだ。

「おまえたちも……」
 お母さんと子どもも来いと言いたそうな虎二郎の左手を瑠花は手錠をしていない左手でそっと握る。

「赤ちゃんの泣き声で見つかっちゃうんじゃないかな……?」
「うん? まぁ、そうか」
 虎二郎は親子をシッシと手で追いやる。

「おい、俺たちがここにいるって絶対言うなよ! 言ったらあとで仕返しするからな!」
「は、はいっ。カ、カナちゃん、まだ6階だから1階までがんばろう?」
「おかーさん、おねーちゃんは?」
「お姉さんは、足が痛いから少し休憩するみたい」
 虎二郎の後ろでお母さんがペコリとお辞儀し、子どもと一緒に下りていく。
 あの親子が逃げることができてよかった。
 きっとすぐ蓮が見つけて、助けてくれるはずだ。

「ねぇねぇ。もうさ、ここでヤッちゃう?」
 虎二郎は瑠花を冷たい廊下に押し倒すと、馬乗りになりながらニヤリと笑った。

 見降ろされながら不気味に笑われると、あの日の恐怖がよみがえる。
 暗闇ではないけれど、それでもこの人の笑顔は怖い。

「あぁ~、その顔、サイコー」
 舌なめずりをする虎二郎に瑠花の身体は震えた。

「ね、ねぇ。あなたの名前……教えて?」
「虎二郎」
 虎二郎の手が腰から服の中に入ってくる。

「こじろうさん? ……こじろうくん?」
「くんかなー。ルカちゃんの方が年上だからさ」
 なんで年齢まで知られているの?
 名前だけじゃなくて?

「そ、そうなんだ。えっと、じゃあ、こじろうくんは、どうして私を?」
「えぇ~、そんなの好きだからに決まってるじゃーん」
 その怯えた顔が大好きと耳元で囁かれた瑠花は鳥肌が立った。
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