スパダリ救急救命士は、ストーカー被害にあった雑誌記者を溺愛して離さない~必ず君を助けるから。一生守るから俺の隣にいろ~
「俺は怪我をしているんだ! 早く病院へ連れて行けよ!」
「怪我って、手首が赤いだけだろ?」
「痛いんだよ」
 はしご車から降りてきた虎二郎の大きな声に、野次馬も含めた周りの人たちが注目する。

「救急車はまだかよ、俺を先に連れて行けよ、絶対に!」
「あー、おまえはパトカーに乗せてやる」
「行くのは病院だろ! 手が痛いんだ。早くしろよ」
 暴れる虎二郎は警察官に捕まえられながら連行されていく。

「あっ! 親父! 助けに来てくれたのか? 何とかしてくれよ、こいつら俺をパトカーに乗せるって言うんだ」
 虎二郎に親父と呼ばれた大久間はスッと目を逸らす。

「えっ? なんで」
 スタッフに残りの水を配るように指示をし、先に戻ると車の方へ歩いていく大久間を虎二郎は信じられないという表情で見つめた。

「あー、火をつけたおにーちゃんだ。ねぇ、おねーちゃんどこ? パパ~、おねーちゃんは?」
 途中まで一緒に階段を下りた女の子の無邪気な発言に周りは一斉に虎二郎に注目する。

「火をつけた……?」
「ねぇ、お嬢ちゃん、あの人が火をつけたの?」
「うん。エレベータにね、火を入れたって。おねーちゃんにすぐ怒るし、ママより怖いの!」
 近くの人からだんだん伝言ゲームのように広がっていく。
 一人の男性が虎二郎に向かってスマホを構えると、虎二郎は俯き警察官たちに隠れるような行動をとった。

「そういえば、さっきその男が大久間候補のことを親父って。もしかして親子なのか?」
 わざと周りを煽るために放った蓮の一言に、周りはざわつく。

「何とかしてって言っているのを聞いたわ」
「火事を起こしたのは水を配って票集めするためかよ」
 さっきまで大久間に感謝していそうな人々も手のひらを返し、大久間のスタッフに詰め寄る。

「おい、さっさと車を出せ!」
「俺も乗せてくれよ! このままじゃ」
「お前のような奴は知らん!」
 早く車を出せと紫色のTシャツを着たスタッフに命令する大久間の前に、正臣が姿を現した。

「大久間敏史郎、公職選挙法第139条違反の疑いにより身柄を拘束させていただく」
「なっ! なんの証拠があって!」
 選挙カーでたまたま近くを通っていたから来ただけだと、自分は何もしていないと大久間はしらをきる。

 瑠花はまだ録音中のボイスレコーダーを握りしめ、蓮に支えながら正臣の方へ向かった。

「紫のTシャツを着た選挙スタッフが水を配りながら『大久間候補をよろしくお願いします』と言っていました。ここに録音されていると思います」
「赤く点滅しているが、まだ録音中か?」
「はい。そしてあの男がこのマンションに火炎瓶を投げたと証言した部分も入っています」
 瑠花がボイスレコーダーを証拠として提出すると告げると、正臣は瑠花に感謝を述べた。
< 50 / 55 >

この作品をシェア

pagetop