恋愛短編集10作品

まだ確信がないけれど


休みに、星崎をデートに誘ったのは順調だったと思う。
けれど。

「おい、何を不機嫌な顔してんだ。笑えよ。」
彼女との待ち合わせ場所の駅前に、普通にやって来て俺の横に平然と並ぶ朗。
ここは突っ込まないぞ。あえてスルーだ。
「朗ぅ~~!お・ま・た・せぇ~」
俺の目は一点に集中。当然、朗の彼女である吉田ではない。
その後ろに居る星崎。清楚な服装で、ドキドキが倍増。
ヤバい。好きかなんて確証もないのに、この気持ちは明らかな好意。
「さ、行くぞ。」
「そうね、時間は待ってくれないわ!」
朗は俺の肩を叩き、吉田は星崎の手を取って誘導する。
嘘だよね、どこまでが本気なんだ?

「朗、何故、こうなったんだ?」
俺は歩きながら、朗に質問してみる。
それは吉田が星崎を連れて、ずっと先を歩いているからだ。
「ぷふふ。それはね、俺たちに情報を入れてしまった航平の落ち度です。」
俺か?本当に、俺が悪いのか?
「空気読まないか?普通は。」
「何を言ってるんだ。恋愛初心者のくせに。まぁ、任せとけ。」
不機嫌な俺に、どう見ても楽しんでいる様にしか思えない朗の笑顔。
視線を逸らして、何をするのかと思えば。
「おい、星崎ぃ~。航平の事、好きかぁ~?」
なっ?思わず狼狽えてしまう。
これからの時間、気まずくなったらどうしてくれるんだ。それに星崎だって。
戸惑うと予想と反して、星崎は朗に笑顔を向ける。
そして吉田に耳打ちをした。
それを聞いた吉田は。
「朗ちゃぁ~ん!もう激惚れですよ、コレは。重症です!」
何故か朗に向かって、嬉嬉と報告。
「やったなぁ!」
まったく付いて行けない。
「なぁ、あんな数秒の間で、好きを表現できるのか?」
俺には理解できない。もやもやするのは、何故だろか。
朗の言葉も待たずに、俺は足を速め、星崎のもとに向かった。
「手、俺と繋いでよ。誘ったのは俺だし、その、好きなら、良い……よね。」
だんだん勢いがなくなって、尻すぼみになる声。
『あなたは私の事を好きじゃない』
前に言われた言葉が頭を過り、痛む胸。
「吉田さん、ごめんね。わがままに応えたいのは、あなたには分かってもらえると思ってるんだけど。」
星崎は頬を染め、吉田に断りを入れる。
絶対に譲らないかと思っていたけれど。
「うん、友達の幸せは邪魔しない。瑠々の言う様に、私は……」
何だか違和感のある言葉。
寂しそうな表情に、思わず俺が悪い事をしているような申し訳なさ。
ゴスッ
「痛っ」
腹部に激痛。
見たことのない怖い表情の朗が、俺に膝蹴りしていた。
被害者は俺じゃないのか?
「ごめん、吉田。」
思わず謝罪。
「分かればいいんだよ。さぁ、ハナは俺の腕にしがみ付いて胸を押し付ければいいよ。」
ゲスいなぁ。
こんな朗を、吉田は本当に好きなのか?
まぁ、俺に対する殺気が消えたのは良い事だ。

「村島くん、はい。」
星崎は俺に左手の平を見せる。
俺は首を傾げ。分からず犬のお手のように、そっと右手を乗せた。
「ふふ。手を繋ぎたいって、軽い気持ちなのね。」
はっ。
自分で言った言葉も忘れ。
これは、俺が悪いのか?そもそもあの二人が。いや、言い訳だな。
「ごめん、繋いでもいい?」
改めて確認すると。見つめたまま、少しの無言。
彼女の手は下がり。
「駄目。また今度ね。」
信じてはもらえない。
恋は積み重ね。この想いを基盤に。
短い数分、手が重なって共有していた温もり。
それを失って、何とも言えない感情。寂しさ?
後悔。自分に何ができたか。


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