恋愛短編集10作品

「わかった。じゃぁ、我慢する。」
自分の手をぎゅっと握りしめ、拳を見つめた一瞬。
自分の中に生じたのは。

『本当に、好きだろうか』

先を歩いていた二人に呼ばれ、俺達は並んで歩き始める。
それは恋人とは違う距離。手も繋がず。
君は俺を好きだと言うけれど。
前を歩く朗と、朗の腕に身をあずけるように寄りかかる山田。恋人の空気。
恋人が欲しいと願うのは。二人を見ていたからかもしれない。

「村島くん。」
呼ばれて、視線を向けると。目が合い。
「私ね、中学の入学式の時。あたなに助けてもらったんだ。きっと覚えてないでしょうけど。」
そう言って。穏やかな微笑み。
目が離せなかった。
視線はまっすぐ俺に向けたまま。
「その時からね、村島君がずっと好き。」
ずっと。
告白を受け。わきあがる感情。
理解と共に体温が上昇して、顔が赤くなる。
照れと恥ずかしさ。身もだえるような。
思わず顔を腕や手で隠すように覆う。
今まで、多くはないけれど告白は受けた事があった。
それでも心は動かず、こんな感情を取り乱すことなどなかった。
星崎は俺の返事も求めていないのか。
「ほら、二人が呼んでる。行きましょう?」
この告白に、星崎には勇気が必要だったと思う。
何もなかったように背を向けて。
中学の入学式。覚えていない。同じ中学だったことさえ知らない。俺は。

君は、俺を見ていた。今までずっと好意を抱いて。
胸に痛みのような甘さの伴う感覚。
落ちる。恋に。
はまる。抜け出せない感情の波。
逃したくない。手に入れたい。
それは、受けた告白で優位な気持ちなのかもしれない。
だけど、簡単には受け入れてくれないから。
俺も何かしなきゃいけないと思う。

『好き』
言葉にするもの安易な気がして。
『知りたい』
星崎のこと。まだ何も知らない。


朗と山田の誘導で映画館に向かい。
話題の映画。星崎の視線を追い。買うドリンクを見。
目が合うと、違和感のないようにニッコリ笑って会話。
そして自分の行動に戻る素振り。
それを繰り返して、目が合わない時はじっと観察する。
「航平、見すぎ。」
朗に注意され。限界を知る。
方法を変えなきゃだな。

山田が星崎を誘って、女子トイレに行くと言う。
星崎はトイレに行くと言うのさえ恥ずかしいと、言い出せず。
同じ年頃の山田の余裕は、朗との付き合いだろうか。
二人を見送り。ふと。
「朗、そういえば興味なくてきかなかったけどさ。どっちから告白したんだ?」
そう、気が付いたら付き合っていた。
紹介もされたけど、多分のろけは言っていたような。
適当に聞いて記憶にない。
「俺からだよ。壁ドンした。」
「へー」
壁ドン。朗が。
「言っとくけど。壁を殴ったわけじゃねーぞ?」
「……いや、積極性というか。行動力があるな、と思っただけだよ。」
朗から山田に告白。もし逆なら、もう少し参考になったのにな。
「なんだよ、その目は。ハナを好きだと思って、誰かにとられたくなくて必死だったんだよ。なんか文句あるのかよ。」
不機嫌にすねてしまった。面倒くさい。
『好きだと思って、誰かにとられたくなくて必死』
「朗、手に入れて満足した?」
「手に入れたなんて思ってないよ。ハナからの好きを疑うわけじゃないけど、失うのが怖い。」
気持ちを確認し、彼氏彼女になった後。
『好き』とは。
そうだよな。結婚を考える年齢でもない。ただ漠然と。
大人も同じ。結婚した後も。
数値化出来たら、どれだけ楽だろうか。
そうだな、未知数。
それでも誰かに奪われるなど、考えたくもない。


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