野いちご源氏物語 〇五 若紫(わかむらさき)
源氏(げんじ)(きみ)岩穴(いわあな)から出てご覧になると、山の様子がよく見下ろせた。
お寺の所有する建物があちこちにある。
そのなかに他とは少し違う、お屋敷のような上品な建物があったの。
源氏の君はお(とも)に、
「あそこにはどのような人が住んでいるのだ」
とお尋ねになった。

お供が、
僧都(そうづ)——身分の高いお(ぼう)様が、この二年ほど住んでおられるようでございます」
と申し上げると、
「そんな立派な人もいらっしゃるお寺だとは知らず、ずいぶん粗末(そまつ)な格好で来てしまった。あいさつをしたいなどとおっしゃらなければよいが」
とご心配なさる。

源氏の君のいらっしゃる場所からは、そのお屋敷のお庭がよくご覧になれる。
かわいらしい子どもがたくさん出てきて、(ほとけ)様にお供えする花をつんでいるの。
となりで見ているお供たちが、
「おとなの女性も見えますね。まさか僧都が女連れで修行(しゅぎょう)していらっしゃるわけではないでしょう。どのようなご関係の女性なのでしょうか」
とふしぎがっている。
道を下りていってこっそり(のぞ)いてきたお供は、
「若い女房(にょうぼう)や、雑用係の女の子がおりました」
と言っていた。
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