The previous night of the world revolution4~I.D.~
「…俺も同感だよ、ルルシー先輩」

ルリシヤは、溜め息混じりに頷いた。

…やはり、そうか。

この国が、こんな大掛かりな装置を使って、しかもそれを維持するという莫大な手間と費用を使っているのは…それなりのメリットがあるからだ。

国王は確かに、国民を意のままに操っているのかもしれない。

でも、個々人の個性を完全に打ち消すほど強い洗脳ではない。

あくまで、国民を穏やかで、働き者で、誠実な人間性にする…方針を掲げているに過ぎない。

実際、この国の犯罪発生率は、ルティス帝国や他の諸外国と比べると、驚くほどに低い。

しかも、僅かに起きている犯罪も、万引きや引ったくり程度の、比較的軽い罪ばかりだ。

殺人や強盗、強姦などの凶悪な犯罪は、皆無と言って良いほどにない。

あまりに平和なものだから、シェルドニアのニュースでは、「◯◯市の××商店で万引きが起きました」とか、「◯◯駅で△△さんの自転車が盗まれました」とか、そんな情報が当たり前のように流れていた。

確かに、万引きされた店やチャリを盗まれた△△さんにとっては、生活に関わる大きな問題だろう。それは認める。

だが、ルティス帝国では…その程度の犯罪、報道するに値しない。

万引きにしても、盗んだ金額が大きかったとか…チャリパクにしても、複数の駅で同時期に、同じ手口で盗難が起きたとか…そういう事情でもない限り。

ルティス帝国で、万引きやチャリパクがニュースになることはなかった。

報道されるのは、殺人や放火や…強盗と言った、かなり凶悪な事件だけ。

それなのに、シェルドニアではそんな事件が起きることはまずない。

たかだか中学生の万引き程度で、お偉い専門家が顔を連ねて「ここ最近、若者の犯罪の凶悪化が問題となっていて…」なんて、真面目な顔をして議論しているのだ。

これには、ルリシヤと二人で思わず失笑してしまった。

万引きで凶悪犯罪って。そりゃ確かに万引きだって立派な犯罪だし、軽視するつもりはないけどさ。

でも、万引きだぞ?

殺人とか強盗とか強姦じゃないんだぞ?

そんなに騒ぎ立てるようなことか?

万引きチャリパク程度で重罪人扱いされるなら、俺達マフィアは一体どうなるんだろうな。

そうだ、マフィアと言えば…。国民の洗脳のお陰か、この国にはルティス帝国にあるような、所謂裏社会というものは存在しなかった。

犯罪発生率が、おかしいくらい低いのも頷ける。

秩序の維持という観点だけから考えれば、このシステムは非常に有効だ。

それだけは、認めざるを得ない。

だが、納得出来るかと言われたら…それは、否だ。
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