The previous night of the world revolution4~I.D.~
見た、とは言っても。

正確には、実物を見た訳ではない。

と言うか、国王を生で見られる人間なんて、いくらシェルドニア人の気質が穏やかとはいえ、滅多にはいないはず。

だから、姿を見たと言っても、テレビで、だ。

バルコニーに出て挨拶する姿が、テレビで流れていた。

シェルドニア語がまだほとんど分からない俺は、テレビに出てきたその男が国王であるとは思わなかった。

そもそも、国王がみだりにテレビに顔を映すなんて、ルティス帝国では有り得なかったから。

最初見たときは、それが国王だなんて思っていなかった。

えらく立派な装いをしているから、何処かの貴族なのかな、と思った。

しかし、ルリシヤが教えてくれた。

「ルルシー先輩。あれがシェルドニアの国王だ」

「え…。あれが?」

ルリシヤに言われて、初めてそれが国王であると知った。

俺は慌てて、テレビを食い入るように見つめた。

こいつが…アシミムから王位を簒奪したという、ミレド・トレギアスなのか。

「国王がテレビになんて…。今日、祭日か何かか?」

「いや、祭日ではないな。単に国民に挨拶しているだけのようだ」

国民に挨拶だと?

…何の為に?

「何考えてるんだ、こいつ…」

俺は、小さな国旗の旗を振る群衆に、笑顔で手を振って応える国王を見て。

こいつ、点数稼ぎでもしてるのか、と思った。

自分からわざわざ群衆の前に姿を現すなど…そうとしか思えないだろう。

「ルティス帝国では、確かに有り得ない光景だな」

「暗殺してくれって言ってるようなものじゃないか?」

「忘れたか?ルルシー先輩。この国の国民は、心配しなくても皆『調教済み』だ。国王に反旗を翻すような輩はいないよ」

…そうだった。

むしろ、その為の洗脳だったな。

そりゃ、群衆の前に堂々と姿を現しても平気だろう。

「成程…。それなら、こいつ自身が何もしなかったとしても、国民からの支持率は常に100%だし…。国民に嫌われるようなこともないって訳か」

「そういうことだ。実に便利だな、洗脳とは。へまをしても責められないし、弾劾されることもないのだから、国王は気が楽だろうな」

全くだ。

そこで手を振ってりゃ支持してもらえるんだからな。

簒奪してでも国王の座を欲しがる理由も、分からなくはないな。

「こいつが…。アシミムから王位を奪ったのか…」

…にこやかに手を振ってはいるが、なんとも悪どい顔だ。

アシミムも相当だったが、こいつは更にヤバいな。

悪いことしてますって顔だ。

国民の犯罪発生率は低いが、そのぶん王族貴族の犯罪率は高そうだな。

表沙汰になっていないだけで。

「それにしても…。ルリシヤ、この国王…。名前はヘールシュミットじゃないんだな」

「あぁ。トレギアスとかいう家名だったな」

「王位を継ぐのはヘールシュミット家の人間じゃないのか?何でこいつがしゃしゃり出て、国王になれたんだろう」

いかに穏やかで、王家に逆らわない国民達でも。

さすがに、本来玉座に座るはずのない人間が座っていたら、異議を唱えるのではないか?
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